新しい外来種を確認(平成25年12月)
昨年(平成24年)の夏頃、相模原植物調査会会員で横浜市在住の方から、旭区の追分・矢指市民の森付近で見慣れない植物が生育している、との連絡をいただきました。添付されていた写真を見たところ、なんという植物なのかさっぱりわかりません。イラクサ科かクワ科のようにも見えたので、その線で図鑑をいくつか調べたり、さらに何人かの詳しい方にも写真を見ていただいたりしましたが、やはりわかりませんでした。
その後、現地を見に行こうと思っていた矢先に草刈りで刈り払われてしまったとの連絡があり、持ち越しとなっていました。今年になって再び「今年も育っています」と連絡があり、今度こそ草刈りする前にと、現場を案内していただくことになりました。
生育地は保土ヶ谷バイパス下川井インター近くの追分・矢指市民の森の一角と、中原街道の路傍の一部の2カ所で確認できました。その植物は高さ20~30センチほどのあまり特徴の無い草本で、現物を見ると、イラクサ科というよりクワクサやエノキグサに近い印象を受けました。標本用に1株と、生品で検討するために土を付けたままの1株を採集しました。
その後、相模原植物調査会の野外調査会の帰り、外来植物に明るい会員の方と博物館で鉢植えにしてあったその株を一緒に見て検討したところ、トウダイグサ科ではないか、との結論に至りました。さらにその方が、インターネット上で見つけた中米原産のAcalypha setosa A Rich(トウダイグサ科エノキグサ属)ではないかと連絡をくださったのです。写真を見るとほぼ間違いなく、英名Cuban copperleafというところまでわかりましたが、日本名がありません。つまり、まだ日本では確認されていない外来植物の可能性が高まりました。
その後も身近な文献やインターネット上で調べた限りでは、やはり国内では報告がなく、日本新産の外来種であろうと判断しました。そこで、和名について発見者と相談し、外来であることと、路傍で生育可能な性質、そして同属のエノキグサの別名であるアミガサソウにちなみ、アレチアミガサソウと仮称することにしました。ちなみに、同属にはキダチアミガサソウとヒメアミガサソウという外来種が報告されていますから、それらとの近縁性もわかり、なかなかよい名前だと思います。
さらに地方の植物誌などから情報を集めた上で、ほんとうに国内新産かどうかという検討を続けなくてはいけませんが、時期を見て学術雑誌へ正式に報告したいと考えています。 (生物担当 秋山幸也)
クワコから教わる、カイコに残る野生の記憶(平成25年8月)
今年も春から初夏にかけて、カイコの飼育を行いました。5齢(終齢)になると、クワの葉を食べるスピードが爆発的に増して、あげてもあげてもあっという間に筋(葉脈)だけになってしまいます。だからといって、ドサッと一度に積み上げるように葉をあげればよいかというと、そうでもありません。カイコは自分より上にある葉をどんどん食べ進んでいく性質がある一方で、下に潜って食べるということをしませんから、食べ残しが多くなるだけです。そんなわけで、5齢の間は数時間おきに新鮮な葉を取りに、博物館の敷地内にあるクワの木へ通うことになります。
ある時、クワの葉の裏に黄色っぽい綿のようなものがついていました(写真1)。これは、カイコに近いなかまの野生の蛾、クワコの繭(まゆ)です。カイコは、中国大陸に生息していたクワコを家畜化したものと言われています。ただし、家畜化の過程で野外に生き抜く能力を完全に失ったカイコと野生のクワコには、習性などに大きな差があります。そのため、分類上の両種の関係には諸説あるものの、カイコとクワコが進化的に非常に近い種類であることは間違いありません。
さて、このクワコですが、若齢のカイコに見られるまだら模様(写真2)や、終齢になると目立つ眼状紋(写真3)の意味を説明するのに都合がよいので、私はよく「カイコの授業」に使います。カイコは3齢くらいまで、体全体に黒いまだら模様があります。4齢から5齢にかけてだんだん白くなり、5齢になるとそのコントラストから眼状紋や半月状斑紋といった黒っぽい斑紋が目立つようになります。こうした模様は長い選抜、改良の歴史の中で見栄えよくするために人間が意図的に残したものでもあるのですが、「野生の記憶」と言えなくもないのです。
黒い模様は眼と間違われることが多いが、胸部にある模様にすぎない では、クワコの幼虫の模様の変化を見てみましょう。若齢のクワコを見ると一目瞭然(写真4)、このまだら模様は、アゲハチョウをはじめ多くのイモムシで見られるのと同じ、「鳥のフンへの擬態」なのです。さらに、クワコの5齢幼虫は、写真5のように枝に対して斜め上にまっすぐ止まる性質があります。クワの枝への見事な擬態です。茶褐色の色合いも、クワの若枝の色だったのです。この性質は、カイコにはもはや残っていません。 しかし、こうしてとまっているクワコの頭を軽くつつくと、写真6のように頭(正確には胸部)を前傾させて丸めます。すると出てくるのが、眼状紋です。枝への擬態では隠していた眼状紋を突然見せるのは、ヘビを意識した「目玉模様」を見せて外敵(鳥)を驚かせるための、最後の抵抗だったのです。
せっかくなので、クワコの成虫も見てみましょう(写真7)。野生に生き、もちろん飛翔可能なシャープな体の線、複雑でメリハリのある翅模様。野趣と表現すればよいでしょうか。モコモコしてぬいぐるみのようにかわいらしいカイコの成虫(写真8、9)と対照的な、野性味あふれるクワコも私は好きな昆虫のひとつです。 (生物担当 秋山幸也)
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カワラノギクの種まき(平成25年5月)
平成25年3月28日(木)、市内南区下溝の相模川で、カワラノギクの保全圃場(ほじょう)の種まきを行いました。この圃場は、河川管理者である神奈川県のご協力を得て造成され、光明学園相模原高校の理科研究部が育成にあたるものです。種子のまき方は、桂川・相模川流域協議会のみなさんに指導していただきました。理科研究部では在校生に加えて、今春卒業したOBも駆けつけてくれています。ゴミを拾ったあと、川砂と水を混ぜた種子塊(しゅしかい)を、砂礫地(されきち)の上にまんべんなくまいていきました。
相模川を象徴する絶滅危惧種であるカワラノギクは、現在、緑区葉山島や同区大島などに大規模な保全圃場が作られ、地元の小学校や市民団体を中心に保全育成が行われています。残念ながら、人間の力を借りずに存続している自然群落はなく、神奈川県版のレッドデータブックでは、最も絶滅の危険性が高い絶滅危惧1A類に区分されています。相模川水系のほかには鬼怒川と多摩川にしか自生していないので、万が一にも相模川の個体群を絶滅させるようなことがあってはならないのです。
さて、この保全圃場を造成したのは、今から20年ほど前まで自生の群落があった場所です。種子は、もっとも近い保全圃場で採種されたものを使いました。この播種作業の前には、私が高校生たちに事前のレクチャーを行い、カワラノギクの生態や保全の経過などを説明しました。地元の高校生が生物多様性の概念を学びながら保全生物学の実習を行うのが、この 圃場です。 なぜカワラノギクを守らなくてはならないのでしょうか。しかも、人工的に作られた裸地で、ほかの植物を抜き取るような過保護をしてまで。 高校生たちは、真夏の炎熱地獄や真冬の吹きすさぶ寒風の中で、その答えを探しながら作業するはずです。カワラノギクの種の保存を第一義として進めてきたこれまでの保全 圃場ほじょうから、ちょっと教育的な意義を含んだ新しい圃場がスタートしました。これからどのような成果の花を咲かせるのか、楽しみに見守りたいと思います。 (生物担当 秋山幸也)