相模原市緑区名倉の火山灰
相模原市緑区名倉の芝田川沿いでは、約10万年前に遠方から飛来して降り積もった火山灰の地層がいくつか見られます。いずれも、芝田川を渡ったり、川の中を歩いたり、場所によっては急な崖を上ったりしなければたどり着くことはできませんが、相模野台地では見ることのできない火山灰を観察することができます。地層の下の方から順に、御岳(おんたけ)第一軽石、鬼界葛原(きかいとずらはら)火山灰、“未命名火山灰”、御岳伊那(おんたけいな)軽石、葛原(とずらはら)III火山灰、阿蘇4火山灰が見られます。芝田川沿いの数カ所で見ることができますが、場所により見ることができるものと、見られないものとがあります。
これらの火山灰の中で最も厚く(厚さ約60cm)、はっきりと見られるのが御岳第一軽石です。軽石が降り積もったもので、白い小さな軽石が集まっているのが観察できます。御岳伊那軽石は厚さ約15cmです。軽石と言ってもとても小さく、まるで芥子の実のようなので、“芥子の実軽石”とも呼ばれています。御岳第一軽石と御岳伊那軽石は長野県と岐阜県境にある御嶽山(おんたけさん)が噴出源です。
鬼界葛原火山灰、“未命名火山灰”、葛原III火山灰、阿蘇4火山灰は層の厚さ数cm程度で、非常に細かい鉱物破片などが降り積もったものです。鬼界葛原火山灰は鹿児島県大隅半島と屋久島の間にある鬼界カルデラが噴出源です。この火山は海中に沈んでおり、火口の縁の一部が硫黄島や竹島として海面上に顔を出しています。阿蘇4火山灰は熊本県の阿蘇山が噴出源です。 葛原III火山灰の噴出源はまだわかっていません。さらに、“未命名火山灰”は名前すら付いておらず、ほとんど研究されていない、不明な点の多い火山灰です。 これらの火山灰は葛原層(とずらはらそう)と呼ばれる、礫・砂・泥からなる地層の間に挟まれています。葛原層は大きな川の下流や湖のような流れの緩やかな環境で堆積したと考えられます。しかし、約10万年前に相模川の上流部にどのようにして流れの緩やかな環境ができたのかは、よくわかっていません。
この地域の火山灰層についての調査結果は、「相模原市立博物館研究報告第21集」に掲載されている論文「神奈川県相模原市北西部、芝田川流域に見られる葛原層の露頭」で報告しました。(地質担当 河尻清和)